2012年7月31日火曜日

238.「向き」と「方向」を区別することについて

233項で連発と連射は違うと書いた。「向き」と「方向」を区別することについて書く。

高校の物理の先生に教わった。

直線は方向を持っているが、向きはきまっていない。
上下方向とは、上向きと下向きを包含した概念である。
機械は往復運動をすることが多いので、方向という言葉が便利である。
私はエンジンのことはさっぱり無知だが水平4気筒とはピストンが水平方向に往復運動するよう配置したものと思う。
日常会話では方向を向きの意味でも使う。「方向転換」「進行方向」とは、「向きを変える」「進んでいく向き」のことである。
私の学んだ物理の先生は、「方向」と「向き」を区別して使い、厳密な議論のときには、「方向」を「向き」の意味では使わないという考えであった。

実際の社会ではこのような意見が述べられることは殆んどない。このことに注意して文章を書いているなと感じることは一度もなかった。(正しく書かれている場合は読み手に意識させることなくわからせるのかもしれない)

しかし、ワタシはなるべく、この教えを忠実に守ろうと思っている。

何年か前に、護謨連発銃の分類を勝手にして、「前後方向連発」、「左右方向連発」、「上下方向連発」といった勝手な分類を「連発」したが、これらの造語は、いちおう「方向」と「向き」を区別して使おうと考えている者が書いたのであります。

歩行者のための陸橋に、お年寄りや身体の不自由な人のためのエレベータがついていることがある。私はこのようなエレベータで入り口/出口が前後2つついた変わったものを知っている。

普通エレベータは入り口/出口はひとつで、奥は行き止まりとなっている。ところが、この変り種では、1階で乗り込むときには、西側の入り口から乗り込む。そして出るときは東のもうひとつの入り口から出るのである。このように入り口/出口が2つあると、なにか不安な気持ちになる。2階に上がったとき、間違った入り口を開けるとその外には何もなく、落ちてしまうような気がする。

その不安を解消するためか、2階に上がって、ドアが開く直前、「チャイムの鳴った方向のドアが開きます。」と録音された音声のアナウンスがある。これがさっぱり要領を得ない。

まず狭いエレベータ内でチャイムが響くと前で鳴っているのか、後ろで鳴っているのか、よくわからない。

またドアには「乗り込んだ方向のドアが開きます」と貼紙がしてある。「乗り込んだ方向のドア」とはどっちのドアなのか、とっさにはわからない。かえって混乱する。「チャイムの鳴った方向云々」という音声のアナウンスのほうは意味はともかく、普通のドアの開き方とは違うなということを乗った者にわからせる働きはする。つぎの瞬間正面のドアがひらくので、客はまちがうことなく、出ていけるのである。

ところが貼紙のほうは余分の処置であるばかりか、客をかえって混乱させる。ここは「乗り込んだ反対側のドアが開きます。そのままのからだの向きでお待ちください。」と書くべきなのだ。ここでは向きが問題なのであって、「方向」という言葉は不適当である。、「方向」という言葉は、向きの意味でも使うが、その意味で使うばあい、必ず、右の方向とか、上の方向とか、向きを示す形容詞(連体修飾語?)をつけて使うべきである。方向とは、本来、「前後方向」のように、ある向きとその反対の向きを合わせた概念であって、向きを厳密に説明する場合に使うべきではない。

「方向」は漢語(和製漢語?)で、「向き」は大和ことばである。われわれ日本人は「向き」に相当する漢語をもたない。だから鹿つめらしく言うとき、「方向」を「向き」の意味で使う。そのため、たまに混乱が起きる。


上の写真を見ると、「正面のドアが開くと書いてあるのだから、この貼紙のあるドアから出ればよいのであって、何も不都合な表示ではないじゃないか。」と思われるかもしれない。しかし反対側から乗った場合はどうだろう。その場合も正面のドアにはこれと同じ表示がしてある。したがって、いったん間違ったドアに向かうと、まちがったドアが正面のドアになってしまい。間違いにきづかなくさせる。正面のドアなるものが2つあるのである。いっそドアの色を変えて、「赤いドアから乗った場合は、青いドアから、青いドアから乗った場合は赤いドアからというように、乗ったのと違う色のドアから降りてください。」と掲示したらよいのではないかと思うくらい

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