2012年7月17日火曜日

235.つきが落ちないように

写真の発明の歴史に興味深いエピソードがある。フランス人ダゲールはヨウ化銀を塗布した
感光板に感光させ、水銀の蒸気をあてると像が発現することを発見した。

以下、昔読んだ本の記憶と、ネットの記事を参考に書くので、細かい点は(そして大筋でも
)間違っているかもしれない。けっしてこのまま引用しないようにしてください。

かれは感光した板を薬品棚の中にいれておいた。翌日かれは感光板に像が現れている事を
発見して驚愕した。そして薬品棚に並んでいる薬品のうちのひとつが、感光板のヨウ化銀と
反応して、像を現したものと推理した(たぶん観音開き式の扉のついた薬品棚だったのだろう。)。

そこでダゲールは毎日1枚、感光板を薬品だなに入れ、毎日ひとつずつ薬品を除いていった。
何日かそれを続けたが、相変わらず、像があらわれた感光板が手に入るだけだった。
そしてある日、薬品棚から水銀のビンを取り除いた翌日、感光板には、像が現れて
いなかった。
水銀のビンを薬品棚に戻すと、感光板上にも元どおり像が現れた。
問題の薬品は水銀であり、水銀の蒸気にあてることにより、感光したヨウ化銀に像を結ばせる
(現像する)ダゲレオタイプの発見である。

ここからが私の感想だが、このエピソードが後世の作り話かどうかは別にして、問題の薬品の
追及のしかたにはリアリティがある。毎日1枚というところに発明者の慎重さがあらわれている。
いちばん早く問題の薬品をつきとめようとすれば、もっと気の利いた方法がある。
同じ薬品棚を購入し、薬品の半分を第二の薬品棚に移す。薬品棚ごとに感光させた感光板を
1枚ずつ入れる。1日たって現像しなかった棚の薬品はすべて除外できる。こうすると1日ごと
に候補を半減できる。かりに32の薬品があったとしても5日目には問題の薬品がわかる。
ただし、5日目までわからない。

ダゲールの方法だと最短で1日、最長で32日で薬品の見当がつき、翌日確認できる。平均
16日もかかる。

しかしダゲールは、発明の歴史が伝えるような方法をとった。なぜか。かれは幸運の女神を
絶対逃がしたくなかったのである。(と思う)

ダゲールの協力者というより師であるニエプスは、ヨウ化銀法の
アイデアをノートに書いていた。しかしニエプスはヨウ化銀法を断念したまま、世を去って
しまった。
ヨウ化銀を感光物質にするのは、ダゲールのアイデアではなかったのである。彼はアイデア
をパクって、実現させただけだ。アイデアの持ち主は実現できないまま、世をさり、そのノート
を手に入れた共同研究者ダゲールがその果実をもいだ。発明の女神は気まぐれであることを
ダゲールは知っていた。発明の女神の機嫌を損ねてはいけない。もし薬品を半分にわけ、
それぞれに感光板をいれた場合、2枚とも現像しなかったらどうするか。沢山の薬品のうち、
2つの相互作用で現像がなりたっているかもしれない。あるいは薬品棚の内部に塗られた
ニスが主なはたらきをしている可能性も全くないとはいえない。条件を急激に変化させることは
危険である。

ダゲールの方法をとると、なかなか原因薬品の特定はできないが、現像は毎日起こっている
のだから、宝の山に近づいていることは毎日確認できる。現像の条件を少し変更しただけだ
から、高い確率で現像はおきる。毎日現像が確認できることはよいことだ。はやる心を
おさめてくれる。そんなもの2回やれば確認できる、毎日確認する必要はないと思うだろうか。
それは結果を知っている者の考えである。成功するかどうか、行く手の見えない者の考えで
ない。何年も失敗を重ねた者の考えではない、と私は思う。

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