2012年8月28日火曜日

244.アイデアか技術か2

「ノーベル賞ゲーム」では、前項で要約したインスリンの発見には、マクラウドのチームとくにコリップの抽出技術が大きく貢献していると考察している。

バンティングの提案後わずか2ヶ月で、血糖を下げる標品が得られたことから、かれのアイデアが決定的であったと考えられる。また、マクラウドの夏休み中に膵臓抽出物によって血糖が下がる実験結果が得られていた、という話からは、「マクラウドの受賞はおかしい」とするバンティングの主張はもっともなように思われる。

さらに、一介の外科医であっても、着想さえよければ、ノーベル賞に値する研究成果を得ることができる、ということは、一般開業医にとっての希望=夢物語として広く受け入れられた。

しかし関係者の研究ノート、手紙などの資料をくまなく調査した医療ジャーナリストの結論は、それほど単純ではなく、マクラウドのチームの貢献も大きく、アイデアだけではだめで、アイデアと技術の両方が必要であったこと、当時の受賞者としては、抽出チームの代表として、また実験治療計画の中心としてのマクラウドが受賞したのは順当と結論づけている。

マクラウドは2ヶ月のうちすくなくとも1ヶ月は大学にいて、研究の基本方針について指示をあたえたこと、バンティングは最初膵臓を移植することによって、糖尿病を治療するつもりでいたこと、バンティングとベストの調製した抽出物は、発熱や傷みをひきおこすだけで、血糖をさげず、血糖降下作用はコリップの抽出物によって始めて観察されたこと。バンティングは抽出方法がわからず、コリップを詰問したこと・・・・。

バンティングは研究の途中で、マクラウドが手柄を横取りし、アイデアだけの自分はほうりだされてしまうのではないかという恐れに取り付かれ、その気持ちはコリップに伝染して、抽出方法を秘密にさせた。血糖降下作用が観察されたのをきっかけに仲間われがはじまった、といえる。

アイデアと技術の両方が必要である。とわれわれは考えておこう。

0 件のコメント: