2012年8月28日火曜日

243.アイデアか技術か または 宝の山を前にして仲間割れする

インスリン発見の物語は、画期的な技術や真理の発見にアイデアが大事か、それともアイデアを実現する技術が大事かというテーマを考えさせる。

「ノーベル賞ゲーム」の最初の2章はこの事件について紹介し、考察をくわえている。へたな要約をする。

インスリンは膵臓のランゲルハンス島に含まれるホルモンで、血糖を下げるなどの働きをする。膵臓を摘出したイヌは糖尿病になることが知られていた。しかし膵臓から血糖を下げる働きをする成分を分離することはなかなかできなかった。膵臓は消化酵素を分泌する臓器でもあり、膵臓をすりつぶしたりすると、消化酵素が「血糖低下成分」をこわしてしまうからである。

カナダの外科医バンティングは、消化酵素の出る膵管の出口を外科手術でくくってしまうと、消化酵素が逆流して、膵臓の消化酵素製造部分は死んでしまい、「血糖低下成分」だけ残るだろう。そうすれば「血糖低下成分」を取り出すことができると考えた。

かれは糖尿病の権威であるマクラウド教授を訪ね、研究施設と実験助手を貸してほしいと頼んだ。マクラウドはこのような試みが世界中で行われており、ことごとく失敗しているので、バンティングのアイデアにたいしてはきわめて冷淡であったが、夏休みの間だけに限って施設を使うことを許可し、学生ベストを助手としてつけてやった。これに抽出技術にすぐれた研究者コリップが自分から希望して加わった。

外科医バンティング、マクラウド教授、学生ベスト、研究者コリップ、こうして役者四人がそろった。

マクラウド教授が夏休みから大学に戻ると、バンティングとベストが手術したイヌの膵臓からコリップが抽出した成分が、糖尿病の犬の血糖値を下げる成績がえられていた。マクラウドはその物質をインスリンと名づけた。かくてバンティングの提案からたった2ヶ月で血糖低下成分がえられ、実験的に投与を受けた少年は死をまぬがれた。大学病院あげての臨床試験が行われ、死に瀕していた患者たちは劇的な回復を見せた。イーライ・リリー製薬会社が製品の製造を申し出て、インスリンが広く治療に用いられた。その時代の内科医は、死病と考えられていた病気から、枯れ木がよみがえるように患者がつぎつぎ回復していく奇跡をまのあたりにみることになった。

1年後、異例のはやさで、インスリンの発見に対し、ノーベル賞が与えられた。受賞したのはバンティングとマクラウドであった。

バンティングは直接実験に携わっていないマクラウドが受賞した事に反発し、自分のもらった賞金の半分を学生ベストに与えた。

マクラウドもバンティングのこの行為に反発し、自分の賞金の半分をコリップに与えた。

バンティングとマクラウドは決裂し、一生和解しなかった。共同研究し、ともにノーベル賞を受賞したメンバーが、発見の寄与度について、決定的なケンカをした有名な事件らしい。(つづく)



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